デジタル時代の金融サービス業

前稿では、デジタル技術がドライブする、モジュール化と製販分離の可能性について論述した。本稿では、その続編として、デジタル技術が加速する他の2つの兆候、オムニチャネルとセルフサービスについて言及する。イノベーションを実現するデジタル技術は既に手中にある。課題は、その適用機会と、それによるディスラプティブな変化の誘導にある。

金融商品は元来、商品そのもの実現価値で積極的な差別化が図りにくい財であり、単純な価格競争に巻き込まれやすい。抜本的なコスト構造の変革は、これまでの販売チャネルの変化を大きく超え、金融サービス業の組織構造やビジネスモデルの変革を伴うなかで、意図的に実現するものである。

 

ソーシャルとローカルな対応:オムニチャネル対応
金融サービスにおける顧客関係の変化も、その変化の活用は新たな販売チャネルの構築に欠かせない。デジタル技術は、顧客の行動様式を変えた。アナログレコードや電報が日常生活から消滅したように、銀行の支店で振込をしたり、証券会社の店頭で株式を購入する金融サービスの消費行動もほぼ消滅した。来店型保険ショップやそのネット販売において、複数の保険会社に跨る、生命保険、損害保険のワンストップの乗換提案を受けることも、日常化しつつある。デジタルネイティブ世代の金融サービス取引性向は明らかに変化し、金融サービス業は正に、SoLoMo(ソーシャル、ローカル、モバイル)時代の渦中にあり、そこでは、オムニチャネル(Omnichannel)対応は必然であろう。

変わったことは、金融サービスへの需要(ニーズ)ではなく、金融サービスの行動様式(利用パターン)である。

銀行サービスに関しては、もはや誰も疑わないであろう。検索エンジンを使い、金利と取引条件を調べ、ソーシャルネットワークのレビューで口コミ情報を確認する。新たな口座の開設すら電話や郵便、ネットで完結し、日々の取引はネットとATMのみで行う。今や、銀行サービスの差別化要素は、インターネットバンキングの使いやすさと、無料開放のATMネットワーク網となった。もはや、リテールバンキングにおいては、顧客が自ら銀行に足を運ぶのはクレームと解約の時だけであり、大きなインセンティブ無しに、セールスの場としての支店への顧客招致は出来ない。モバイルやソーシャルチャネルの導入を躊躇していては、顧客との距離は離れるばかりで、顧客の金融サービスの利用パターンの変化を見失ってしまう。

証券サービスにおいては、FIXプロトコルとSTP ( Straight Through Processing ) の推進は機関投資家や個人投資家に、新たな収益機会をもたらすのみならず、電子取引、アルゴリズム取引、HFT、SORなど、業界地図を塗り替えるトレンドの誘因となった。機関投資家におけるHFT(高頻度取引)や電子取引比率の高揚、個人投資家にデイトレーダーやオンライン証券の隆盛は、業界構造に破壊的な変化をもたらした。

保険サービスはどうか。顧客の保険リテラシーの向上は、「勧められる」から「比較する」時代への変化を加速する。主体的な保険取引の行動様式に合致した販売チャネルを構想する時、銀行サービス、証券サービス、ひいては、小売市場全般におけるオムニチャネルの動向は看過できない。特に、O2O (Online to Offline)コミュニケーションや‘People like you’ 機能(例:これを買った人はこれも買っています)など、デジタルネイティブチャネルのマーケティング手法が、保険販売チャネルの常識となる日も遠くないだろう。

 

セルフサービスと事務処理完結:金融サービス業のSTP
テクノロジーの観点からは、金融業界での取り組みは、共通する要素が多い。銀行ATMの普及はリテール銀行の店頭から現金処理を駆逐し、オンラインバンキングやオンライントレーディングは小口で高頻度な金融取引をセルフサービスへ誘導した。いずれも、顧客利便性を向上させると同時に、金融機関の事務処理コストを低下させた。保険業界においても、保険料収入のキャッシュレス化やオンライン取引による保険資料請求などは既に普及している。

一方で、業界や個別金融機関に固有な文書やメッセージ形式が災いし、複雑な商品の事務手続きは、業務プロセスの自動化(STP:Straight Through Processing)にほど遠い。このことは、事務コストや金融取引リスクのみならず、販売チャネルの多様化においても、大きな障壁となる。

銀行における住宅ローンも、デジタル化やSTPが遅れた商品の典型であろう。顧客のローンリテラシーの向上は、「勧められる」から「比較する」時代への変化を加速する。更に、金融サービスへの需要(ニーズ)ではなく、金融サービスの行動様式(利用パターン)の変化も見逃せない。ローン商品は、消費者の購買行動に付随的に、または、同時発生的にその需要が生じる。どれだけ魅力的な新型ローンの広告宣伝がなされても、ローンを必要とする高額商品の購入タイミングで無い消費者にはノイズに過ぎない。伝統的に、宅建業者やカー・ディーラーは、こうした消費のタイミングにローンを結び付ける、いわば銀行にとってのローン販売チャネルであった。

今日、デジタル技術の普及は、この潮流をドライブし、デジタル化は全てを改善するキーテクノロジーとなろう。逆に、デジタル化出来ないプロセスは、極めて付加価値の高いプロセスか、削除すべき工程かもしれない。バックオフィスのBPO(Business Process Outsourcing)やシェアードサービスも有効な手段となる。ここでも、多様化は規模の経済、範囲の経済を通じて、新たな事業機会を産み、また、事務処理の改善のみならず、顧客接点の改善においても、セルフサービスと事務処理完結は、不可欠な対応と言える。もはや、デジタル化され自己完結していないプロセスは、顧客からも、販売チャネルからも選択されない。

一旦、デジタル技術が金融商品の事務処理における固有性を捨象すれば、消費者は、正に、適切な場所で、適切なタイミングで、適切な金融商品を選択し、購入、利用出来るようになる。住宅ローンに関して言えば、住宅購入に最適な場所、タイミングにおいて、最もふさわしいローン商品を推奨され、比較検討し、利用することが可能となる。銀行は、住宅ローンという金融商品の製造会社となり、宅建業者やハウス・メーカーは、その販売会社となりうる。銀行業の製販分離は、デジタルテクノロジーがドライブし、そのビジネスモデルを変革する。

2014/12/22(月曜日)に報道 された、凸版印刷 、東急リバブル、三菱東京UFJ銀行、三井住友信託銀行、ソニー銀行、三菱UFJ信託銀行の4行の取り組みに、その萌芽を見ることが出来る。

デジタルは、金融機関の内よりも外、顧客に近い場所ほど普及している。

 

凸版印刷、住宅ローン電子化システムの販売強化
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ22I15_S4A221C1TJ1000/

不動産業界初、タブレット端末による『住宅ローン事前審査申込システム』を試行導入~お客様の利便性・情報セキュリティ・審査スピード向上を図る~
http://www.toppan.co.jp/news/2013/10/newsrelease131017_1.html

 

Eiichiro Yanagawa About Eiichiro Yanagawa

Eiichiro Yanagawa is a senior analyst with Celent's Asian Financial Services group and is based in the firm’s Tokyo office. His research focuses on IT strategy issues in the Japanese and Asian banking and financial industries. His recent research has included core banking systems, ATMs, anti-money laundering technology, electronic trading, document management, IT spending trends, and business process outsourcing. Eiichiro's consulting experience includes development of bank IT strategies, thin client / desktop virtualization to support business continuity, evaluation of data centers for hosting core systems, and vendor selection of AML, risk management, and other technologies.

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